第3章「関ゼミのエレメントとネパールプロジェクト始動」


ネパール学生へのお返し動画が完成し、「これでやっと交流ができる」とゼミ生全員が期待に胸を膨らませていた。しかし、

「オンラインプロジェクトは無理。ネパール学生との交流はなし!」

先生の一言でゼミ生の心は奈落の底に落ちてしまった。この状況から関ゼミは立ち直ることはできるのか・・・

 

第2章→https://note.com/sekiseminar/n/nb81496f988a8

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本題に入る前に、関ゼミ生の‟さわね”(ゼミ内役職‟お姉さん”)について少し触れておく。実はさわねは東経大生ではない。上智大学総合グローバル学部4年生。フィンランド語話者、上智大のゴスペルサークル「サフロ」の中心メンバー。内閣府主催の国際交流プログラムでも日本代表に選ばれた逸材だ、なぜこんなすごい学生が東経大の関ゼミに?

さわねは、2年前、関先生が代表理事を務める団体の主催する日本―ベトナム学生交流プログラムに参加し関先生と知り合った。その後団体の学生アシスタントとして活躍し、今年2月には関先生のアシスタントとしてネパールで2週間プログラムを支えた。

関先生によれば、ネパールの標高2700メートルにあるヒマラヤの奥地に滞在中のある夜、いきなり、「関ゼミに入りたい!なんでもやりますから」と直談判してきたのだそうだ。「こいつ一体何を言っているんだ」と先生は頭が混乱したが、さわねの目は本気。しばらく考え、さわねは東経大のゼミ生が「ウチ」に籠ることなく「ソト」に目を向ける起爆剤になれると考え、特別に許可を出すことにした。

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「ネパール学生とオンラインプロジェクト交流は断念、無理。」と関先生がゼミ生を業風にさらす宣言をする中、一人諦めない学生がいた。それこそがさわねであった。関先生の‟キャラ”を知り尽くしているさわねは確信していた。

「関先生がネパールの学生と交流したくないはずがない…」

一方のゼミ長はミャンマー人で生粋の正直者。さらに彼女の母語はミャンマー語。いくら日本語が流暢と言えど、日本人特有の“行間を読む”ことを強いるのは辛辣であろう。先生の宣言を「文字通り」に受け取っていた。

墜落寸前の飛行機の操縦桿を握るゼミ長はもはやあきらめ、「最悪の事態」を覚悟した。一方の管制官、さわねは必死にゼミ長に訴えた。

「トウエ、最後まであきらめてはいけない。ネパールとの交流絶対できるから!あきらめたら関先生もがっかりするよ!」

「でも、さわねさん、関先生は‟オンラインプロジェクト交流は無理"と言いました。」

「いや、関先生は本当はやりたいんだよ。」

操縦士(トウエ)と管制官(さわね)の必死の攻防は実に数日間に及んだ。他のゼミ生はそのことを全く知らされていなかった。

同時にさわねは、さらに一人一人のゼミ生に前向きな言葉をかけ続け、何とかネパールの学生との交流を実現しようと奮闘していた。

ゼミ長は、さわねの必死の努力に次第に感化され、「日本人は複雑だ」と首をかしげながらも、再び気持ちを取り戻し、操縦桿をしっかりと握り直した。

風の噂で耳にした話だが、さわねは先生にも水面下で地道に交渉を続けていたらしい。管制塔の役割からディスパッチャーまで全てこなし2020年関ゼミを再び気流に乗せるべく必死だったそうだ。東経大のゼミを上智大生が守る。何とも不思議な構図だが、それもまた関ゼミが長年に亘って築き上げてきた独特の文化でもある。

その結果、ゼミ生も関先生もネパール学生とのオンライン交流への意欲が復活!!!

そしてついに、関ゼミ史上初、そしておそらく日本発の「コロナ禍記念『バーチャル』日本―ネパール国際交流プロジェクト」の開催が決定した。

「外出自粛の日本とロックダウン中のネパールの国際学生交流は世界でも極めて稀。どうなるかわからないけど、頑張ろう!」

一転、関先生の口から発せられたのポジティブ発言を、ゼミ生はどのような気持ちで受け取ったのだろう(話がコロコロ変わる笑)。しかし少なくとも機体は再び上昇し始めた。

「よしこれでようやく水平飛行」

ゼミ生たちは、シートベルトを緩めた。これからはきっと順風満帆。バーチャルであろうともネパールの学生や世界中の学生との交流が楽しみ。「ようやく思い描いていた関ゼミに戻った」と一同安堵した。

しかーし。またしても、誰も予想だにせぬとんでもない事態が再びゼミを襲う。発信源はまたしても関先生。なんと

関先生が授業中に自滅してしまった!

教師が崩れ落ちていく姿など滅多に見れるものではない。それが目の前で起こったのだ。

ある日の授業中。先生は異文化間コミュニケーションについて一生懸命説明し、学生も熱心に聞いていた。すると突然、先生が苦悩の表情を浮かべ言った。

「もうだめだ。どうしたらいいかわからない。無理、みんなが授業に興味を持っているかどうかもわからないし、僕の話がためになっているかもわからない。だめだ。僕って最悪だね。」

私たちは真面目に聞いているだけなのに、先生が勝手に自己嫌悪に陥ってしまった。画面上には頭を抱える関先生。

「え、一体何が起こったの?」

状況がわからず唖然とするゼミ生。雲で描かれた道標は深い青い空に溶け込み、行き先を見失ってしまった飛行機のようだった。

もちろん先生もオンライン授業で、いかに盛り上げるか綿密なプランを立て、全力を注ぎ込んでいた。しかし対面授業とは違う環境。さらに、発言者以外はミュート(音声を遮断)にしているためゼミ生の反応を掴めず、関先生は内心「自分の話はつまらないと思って聞いているのだ。」と思い悩んでいたとのこと。

「そんなことないですよ、先生大丈夫ですよ。」

とひたすら先生を励ますゼミ生たち。しかし先生の動揺は収まらなかった。

コロナ禍は学生だけでなく教師の心も蝕んでしまうのか。

ここで、逆に学生たちは決意を新たにした。もはや先生に頼っているだけでは再び失速してしまう。ネパール人との交流プロジェクトを前に破綻する訳には行かない。自分たちで頑張るしかない。

「みんな自立するぞ!」

関ゼミ生を乗せた飛行機は、翼が折れようとも疾風に乗って大空へ再び飛び立った。

第2章富士の聳える国の学生からヒマラヤの国の学生への返信

第2章「富士の聳える国の学生からヒマラヤの国の学生への返信」

心地よい朝凪が吹き抜けるように“ヒマラヤの”ネパールの学生たちから自己紹介動画が届いた。突然に送られてきたハイクォリティ動画。ゆったりと波に体を預けることなどもはや許されない。

「返事を送らないとね。」

関先生の鋭い視線にたじろぎ、ゼミ生は、体の重みを感じながら地上を歩み始めた。 

 

 

そして、ゼミ生たちは「これからあの剣山を登頂してみせる」そう固く決意し入山した。 

 

 

書き記すか迷ったが、関ゼミは大学のゼミ、言わずもがな、毎週金曜4限、5限に「多文化共生」や「異文化コミュニケーション」をテーマに白熱した議論を重ねている。4限の授業では、難解極まる内容の資料を読み解く。先生とゼミ生の間では容赦ない火花が飛び交う。まさに一触即発。聞くところによれば、なんと大学院生向けの本だとか。初耳である。されど関ゼミという攻略困難な山に登頂した猛者たち。突飛な質問にも冷静沈着に対応しつつ、烈火のごとく質問を返し立ち向かった。先生も予期せぬ方向から投げ出される難解な質問に、ポーカーフェイスを崩さないよう必死に答えていた。 

 

授業中は熾烈な論争(もはや戦い)が繰り広げられ、一点の隙も見せまいとする緊張感が漂う。それはまるで山登りの道中、呼吸のリズムを一定に保ち続けろと命令を受けた登山部員のようだった。この中にいる誰もがこの状況を“乱してはいけない”という雰囲気に包まれた。 

 

しかし、4限の読解困難な本を通じたバトルはウォームアップに過ぎないのだ。いわゆる本番は活動セクションごとに話し合う5限(そして6限)。 

 

荒れた海には戻るまいと後ろを振り返る学生はおらず、山頂を目指した。まだどこかで関ゼミの可能性を信じてゼミ活動に情熱を注いでいた。そして、指針としてゼミ生のやりたいことをリスト化した。 

 

 

さて、本題に戻る。ネパール学生からの贈り物に何を返せるのだろうか。時間に迫られる中、必死の思いで知恵を絞り出したが中々いいアイディアが出てこない。目の前の濃霧に歩みを止められてしまう。 

 

「ネパール人のことを何も知らない私たちが彼らを感動させるものを返すことなどできるのか・・・。」 

 

「インパクトのあるものをやりましょう!」 

もはや先生は、学生を混乱に陥れることが趣味か、としか思えない。しかし、慣れとは恐ろしい。学習力の高い学生たちは、先生の“場を乱す”雄たけびにもはや顔色を変えることはなかった。

ダンスが得意なゼミ生が「私やりましょうか?」と難題に臆することなくその場を仕切り始めた。

「私が簡単な振付を考えるのでみんなで踊りましょうよ!派手に行きましょう!」

と半ば投げやりとも思える提案。矢のように先生の頭に突き刺さった。動揺を隠せない先生(ただぽかんと見つめるだけ)。「好きなことをやれ」の発言に素直に対応してしまうピュアなゼミ生。山の澄んだ空気しか吸ったことがないような高潔な学生だ。

その後、ダンス動画の構成や選曲まですんなり決まってしまった。このスピード感に関先生は脱帽である。たとえ目の前の倒木が行く手を阻もうとも、すぐに答えを導き出すゼミ生であった。 

 時は数日流れ・・・ 

 

ゼミ生は動画作成の日々を過ごしていた。緊急事態宣言で外出自粛要請を余儀なくされているため、ダンス練習は屋内に限られる。大学生が一人自室でスマホを片手にダンスの特訓をしているという不気味で不可解な現象が発生していた。その光景を想像するだけでぞっとする、いや笑いがこみ上げてくる。 一方、ゼミ生からの熱い期待が注がれる先生はと言うと、まさかの「僕は踊らない」宣言!? 一同「絶句」である。 好き放題言っておいて自分は踊らないなんて・・・。

そのうえ、ゼミ生が動画作成に追われている中(予想以上に時間がかかった)、学生からの反応に先生は疑念を持ったそうだ。

「こいつら、動画制作のこと忘れたな。まあ、学生なんてそんなもんだ」 

酷い、あまりに酷すぎるではないか。 

 

翌週の授業はあらゆることが空回りで最悪の展開が続いた。関ゼミに入ったことを一同後悔し・・・かけたその瞬間! 

「できました!!!!」

 

山の向こうまで遠く澄み渡るような大きな声。待ちに待った動画完成の合図だ!

動画が流れる画面にゼミ生の視線は釘付けになった。

「ダンスの振付から動画編集まですべて完璧、凄い!!」

拍手喝采であった。“ブロッケン現象”を目撃し、剣山を登頂した気分だった。やった、ついにやった!

ふと、モニターの左上に写る先生の様子を伺うと、我々の歓喜を覆い隠す雲海のような薄暗い複雑な表情を浮かべていた。 

「次は何を考えているのだろうか?」

 

早速ネパールに私たちの動画を届けた。すると、大喜びしてくれた。

「このままネパール学生とやり取りを継続し、プロジェクトとして活動をスタートさせてしまおう!」とゼミ生は歓喜の渦に。 

しかし!

ここでもまた、薄暗い表情の先生の口から、一同を崖から突き落とすまさかの「トンデモ」発言。

「オンラインプロジェクトは無理。ネパール学生との交流はなし!」

「先生、それはないでしょう・・・。」

一気に白けてしまうゼミ生。つい先ほどの一瞬の高揚感は地に落ちてしまった。海外研修準備の過酷さは先輩からよく聞いていた。オンラインの難しさもわかる。でも、先生、何故にこのタイミングで??

「絶望的だ」この一言を心の中で呟かなかった者は誰もいない。ゼミ生の心は奈落の底に突き落とされた。

 

次回予告  ゼミ長と上智大生の起死回生の大奮闘 

関ゼミ生のダンス動画→ https://youtu.be/6RHujiMSWBc

文責:榎本みう 岡田美和
写真提供:尾口梨栄奈 トウエ・タッタ・サン

第1章「沈む幻惑、浮かぶ眩惑」


新型コロナにことごとく打たれ、もはや「青天の霹靂」立ち尽くすことしかできない関ゼミ。それを打開するべく、ミャンマー出身ゼミ長の提案で始まった“Zoom人狼ゲーム”。ゼミ生同士の心の距離を狭めることができたと喜んでいたが・・・。




 

「やりたいことをやってください。」


私たちは再び、激しい荒波の中に放り込まれることとなった。


「17名のゼミ生を4つのセクションに分けました。セクションメンバーは似たもの同士です。やりたいことを精一杯頑張って、“ゼミ内化学反応”を起こしてください。すごいことを期待しています。」


一人の活発な学生がすかさず質問する。

「具体的には何をすればいいのですか?」


「だから、やりたいことをやってください。すべては君たち次第!」


一同「・・・」


先生が何度も繰り返す「私たちがやりたいこと」の珍回答に、ますます広大な奥深い海底に引きずり込まれていくような気分だった。もともと先輩から「関先生は一筋縄ではいかない」と聞いていたが、もしかしてこの人はただの変人?それとも「やる気のない丸投げ教授?」もう意味がわからない。



「いや、そんなはずはない、先輩方が絶賛する関ゼミ。何か特別な仕掛けがあるはずだ。まずは信じてみよう!」


ゼミ生は必死に自らを鼓舞し、先生が勝手に決めた、謎めいた各セクションで訳もわからぬまま必死に話し合いを重ねた。その姿はまるで海流に逆らう魚たちのようだった。



しかし、私たちの疑念に追い打ちをかけるように、数日後先生からLINEグループにさらに奇妙なメッセージが送られてきた。


「みんな、好きなことをやろうよ!好きじゃないことは続かないですよ。」


一瞬、時化ていた海が凪いだような気がしていたが、それは大きな勘違いだったようだ。


この全く場の空気が読めない言葉にあきれた私たちの中からは


「好きなことってずっとゲームをやっていてもいいってこと?」


と本気で言い出す学生さえもでてくる始末。もはやカオス以外の何物でもない。


ただでさえ、今の関ゼミは「新型コロナ」という名の、鳴門の渦潮に巻き込まれているような惨事下にいるのに、当の先生は竜宮城に誘われるような恍惚な表情を浮かべ、


「もう、わっかんないよ♡」


「は??もう、わっかんない??」


この驚異の爆弾発言から、私たちはある重要な事実を突き止めてしまった。まさか、そういうことだったとは・・・。


一番溺れているのは学生ではなく先生だったのだ。


私たちは、目の前にいる‟モンスター”が見せた一瞬の隙を見逃すほど愚かではなかった。仮にも厳しいゼミ選考を通過してきた強者たちだ。



100年に一度とも言われる未曽有の危機。先生も人間。右往左往するのは学生と一緒。しかし、大学教授としてそう簡単には弱みを見せるわけにはいかない。だからゼミに入りたての無垢な私たちに、


表情だけは堂々と、「詭弁」を繰り返していたのだ。


 何ということだ。指導者すらも迷走する関ゼミ。


さらにコロナの影響でネパール学生との交流も水泡に帰し、途方に暮れていたその時、


デトリタスに埋もれた私たちに海面から天使の梯子が降り注いだ。なんと、見知らぬネパールの学生たちが、“Dear our love Seki Seminar members”(親愛なる関ゼミのみんなへ)と自己紹介動画をモーセの十戒の如く海面を切り開き送ってきてくれたのだ。


「今年はコロナのせいでネパールの学生と交流するのは難しい。」

先生はそう言っていたではないか!羊頭狗肉とはまさにこのことである。


しかし、動画の3分間は私たちの心の灯台に光を灯してくれた。落ち込んでいる私たちの気持ちを見透かしているかのように、元気づける心のこもった一言一言。まるで船から海に投げ出された泳げない船員を救い出すイルカのようだった。


聞けば、高材疾足の彼らは後発発展途上国の劣悪なネット環境を物ともせず、わずか3日間であのハイクオリティ動画を完成させたらしい。まさに”化け物”的優秀集団。


 「次は君たちの番だよ。もらったらお返ししないとね!」


 先生の目は目の前の獲物を逃がすまいとするサメのごとく真剣そのもの。突き刺すような期待の眼差しから、逃れる術を持ち得ている者など誰もいなかった。




 こうして、関ゼミかつてない、あの奇跡の関ゼミ自己紹介動画作成が始まったのである。(動画は→ https://youtu.be/6RHujiMSWBc )