海外ゼミ研修(ベトナム)報告書 吉田然太(経済学部3年)

 加来翔人・藤村風音・グエン・ホアン・ロンによる先行研究「国籍が異なる未知の若者同士が親密になる条件についての研究」では、異なる文化的背景をもつ若者がいかにして親密さを獲得していくかが論じられている。研究では、留学生と日本学生との交流において文化的・言語的な壁が存在し、それが深い関係構築の妨げとなることが指摘されていた。そのうえで、短期間で親密さを高める条件として「協力」「行動の共有」「共食」という三点が提示されている。さらに、共通の目標を持ち、その達成に向けて共に取り組むことが、異文化間の距離を急速に縮める効果をもつことも示されていた。本報告では、この先行研究の知見を踏まえながら、2025年9月3日から15日にかけて実施されたベトナム研修における経験を整理し、期間中記録していたメモを参考に実際にどのように関係性が形成されていったのかを振り返る。


 研修の初日には、トーダモット大学にて現地学生との顔合わせが行われた。当初は形式的な開会式が予定されていたが、実際にはセレモニー色は薄く、自己紹介を行った後、バインミーやフォーを共に食べるアイスブレイクの時間が設けられた。研究で示された「共食」が親密化の契機になるという指摘の通り、この場面では、食事をともにすることで自然に会話が生まれ、互いの緊張が和らいでいった。料理を囲みながら話題を共有することで、初対面同士でも関係の端緒が開かれていくことを実感した。

 その後の文化体験では、バンブーダンスやプレートへの絵付けが行われた。こうした活動は単なる娯楽的要素にとどまらず、慣れない作業において自然に協力や助け合いが生じる点に意義があった。特にバンブーダンスでは、失敗して笑い合うことが一種の連帯感を生み出し、絵付けの場面でも互いにアイデアを出し合うことで共同性が育まれた。ここでは「協力」と「行動の共有」という要素が重なり合い、親密さの形成に寄与していたと考えられる。

 一方で、Hung Vuong High Schoolでの交流では、思わぬ困難に直面することになった。情報の伝達不足や誤解により、当初計画されていた活動を十分に実施できず、現地学生や日本学生の一部は強い落胆を覚えた。この経験は一見すると交流を妨げる要因のようにも見える。しかし、実際には同じ挫折や失敗を共有することが、結果的に学生同士の結びつきを強める契機となった。共通の困難を経験することで、相手に対する共感や理解が深まり、より強い連帯感が生まれていたのが印象的である。先行研究が主にポジティブな協働の場面を強調しているのに対し、本研修では「困難の共有」もまた親密化の条件となりうることが示唆された。

 興味深い点として、認識していないだけの可能性もあるが、私は今回の交流において文化的距離をほとんど感じなかった。先行研究では留学生と日本人学生が自己開示の領域で異なる傾向を持つことが報告されていたが、本研修では年齢の近さや共通の趣味がその差を和らげていたと考えられる。音楽やダンスといった関心事を共有することで、国籍よりも同世代としての親近感が前面に出ていた。国際交流において文化的差異は避けがたいものとされがちだが、実際には共通点の発見が距離を縮める強力な要素となりうることを体感した。

 研修の最終盤には「国際英語プレゼンテーションコンテスト&多文化ショー」が実施された。この場面はまさに先行研究が指摘する「共通の目標」を具現化した活動であった。プレゼン発表だけでなく、ダンスパフォーマンス、司会進行、音響といった舞台運営のほぼ全てを日本学生とベトナム人学生が協力して担った。限られた二、三日の準備期間の中で、役割分担を調整し合い、時間を惜しまず練習を重ねる過程は、強い仲間意識を生み出した。特筆すべきは、この短期間の濃密な協働を通じて、日本人学生のパフォーマンスリーダーとベトナム人のダンスの先生間に恋愛関係が芽生えたことである。たった数日の準備を共に過ごす中で、互いの距離が急速に縮まったのは、共通の目標と濃密な行動共有がもたらした結果であろう。この事例は、先行研究の枠組みを超えて、短期交流がもつ人間関係形成の強力な作用を象徴的に示していたのではないだろうか。

 以上を総括すると、本研修は先行研究で指摘された「協力」「行動の共有」「共食」が実際に効果的に機能していたことを確認できる機会であった。それに加えて、計画通りに進まなかった場面での「困難の共有」や、趣味や年齢といった「共通点の発見」もまた、関係性を強化する重要な要因であると考えられる。わずか二週間という短い期間ではあったが、この研修を通じて築かれた関係は、一過性の出会いを超え、今後の国際交流や自身の成長に資する貴重な経験となった。

以上
【参考文献】 加来 翔人ほか. 国籍が異なる未知の若者同士が親密になる条件についての研究 : 留学生が行くSDGs旅行BENTO JOURNEY : 令和3年度現代ビジネス学会卒業研究懸賞論文 : 優秀作受賞作品. 九州国際大学国際・経済論集 = KIU journal of economics and international studies. (10):2022.9,p.157-186.  (https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R000000004-I032528005)2025年9月20日確認


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