海外ゼミ研修報告書 黄冠笙(経済学部 3年)

1.はじめに

 海外研修は、異文化を直接体験し、教室で学んだ理論を現実社会と結びつける貴重な機会である。今回、関ゼミは2025年9月にベトナム研修を実施し、現地の大学生との交流や企業訪問を通じて、経済・社会・文化を幅広く学ぶことを目的とした。

 研修は約2週間にわたり、トゥドウモト市およびホーチミン市中心部で行われた。参加したのは東京経済大学の学生12名と関教授であり、現地学生との対話や共同活動を通じて、多様な価値観に触れることができた。

 私は出発前に体調面や精神面で不安を抱えていたが、現地の学生や仲間の支えにより積極的に交流を深め、経済的な知見だけでなく、自分自身についても新たな発見を得ることができた。本報告書では、研修の体験を振り返りつつ、ベトナム経済への理解、自己成長、そして将来への展望について考察する。

2.プログラム体験まとめ

トゥドウモト大学とのMulticultural Collaboration Project(9月3日〜12日)

 研修の前半は、トゥドウモト大学(TDMU)での多文化協働プロジェクトを中心に行われた。現地の学生と東京経済大学の学生がペアやグループを組み、語学交流、文化紹介、企業訪問などを通じて互いに学び合った。

 語学交流では、日本語とベトナム語を互いに教え合う活動が行われ、言語だけでなく文化的背景についても理解を深めることができた。また、ベトナムの伝統的な舞踊や料理を体験するプログラムでは、学生たちが自国文化への誇りを表現する姿が印象的であった。特に、伝統的な笠(ノンラー)の装飾体験や地元のお菓子作りを通じて、文化が人々の日常に深く根付いていることを実感した。

 企業訪問では、ソイミルク製造会社や陶磁器メーカー「ミンロン」などを訪れ、生産工程や経営戦略を学ぶ機会を得た。特に、ヨーロッパ製の機械を導入し品質を高めている姿勢から、ベトナム企業が国際競争力を高めようとしていることを理解した。こうした訪問は、教室で学ぶ経済理論を現実の産業と結びつける貴重な機会となった。

 最終日には、日本人学生とベトナム人学生が合同で文化発表を行い、互いの成果を披露した。言語や表現力の差に課題はあったが、協力して一つの成果物を作り上げる過程そのものが、多文化協働の価値を示していたといえる。

外国貿易大学・ホーチミン市経済大学との交流(9月13日〜15日)

 研修後半の3日間は、ホーチミン市中心部に滞在し、外国貿易大学(FTU)およびホーチミン市経済大学(UEH)の学生との交流を行った。

 観光を交えた活動では、現地学生がボランティアガイドとして案内してくれた。独立宮殿や市内の歴史的建造物を訪れ、ベトナムの近代史を学ぶとともに、戦後復興や国家の独立に対する誇りを肌で感じることができた。単なる観光以上に、現地学生の視点から歴史を語ってもらえたことが印象的であった。

 最終日には、就職活動に関する意見交換が行われ、日本とベトナムの就職市場の違いについて議論した。日本の「新卒一括採用」とベトナムの柔軟なキャリア形成の対比は特に興味深く、今後の自分自身のキャリアを考える上でも示唆に富んでいた。

3.学んだこと

ベトナム経済

 研修を通じて、私はベトナム経済の成長と課題の両面を学ぶことができた。とりわけ印象的であったのは、外国資本の存在感、日本からの投資動向の変化、そして国内大手企業の財務リスクである。

 まず、トゥドウモト市における韓国系工場の集中は、ベトナムが国際的サプライチェーンの重要拠点であることを示していた。電子機器や繊維産業を中心に多くの韓国企業が進出しており、現地の雇用や輸出を大きく支えている。こうした外資主導の産業発展は、ベトナムの急成長を牽引している一方で、外国資本への依存度が高いという脆弱性も抱えている。

 次に、日本からの直接投資(FDI)の減少も注目すべき課題である。2023年から2024年にかけて、日本のFDIは約50%減少しており、投資優先度の変化やコスト上昇、政治・制度的リスクなどが背景にあると考えられる。これは、従来「親日的な投資先」とされてきたベトナムが、日本企業にとって必ずしも安定的な投資先ではなくなりつつあることを示唆している。今後、ベトナムがどのようにビジネス環境を整備し、日本を含む多国籍企業の投資を維持・拡大できるかが大きな課題である。

 さらに、国内最大手コングロマリットであるヴィングループの高債務問題も重要な示唆を与える。同社は不動産、リテール、電気自動車(VinFast)など多角的に事業を展開しているが、積極的な投資拡大の結果、財務的に大きなリスクを抱えている。これは急成長する新興国に典型的な現象であり、成長戦略と財務健全性のバランスをいかに取るかが問われている。

 総じて、ベトナム経済は外資導入と産業成長によって大きな飛躍を遂げている一方で、投資の質や金融リスクといった課題も顕在化している。今回の研修で得た観察を通じ、私はベトナムが「成長と安定の両立」という転換点に立っていることを強く実感した。この視点は、今後の学習や研究においても重要な問題意識となるだろう。

自己成長と自己省察

 今回の研修は、経済的な学びに加えて、私自身の成長にとっても大きな意味を持った。出発前、私は体調や精神面で不安を抱えており、最後まで積極的に参加できるか心配であった。実際に体調を崩して活動を欠席する日もあったが、それでも最後までやり遂げることができたのは、周囲の支えがあったからである。

 特に、トゥドウモト大学やホーチミン市の学生たちの温かいもてなしは忘れられない。文化発表や観光案内、日常の会話を通じて、彼らは常に私たちを受け入れ、言語の壁を超えて交流してくれた。その姿勢は、私に安心感と自信を与え、研修をより楽しいものにしてくれた。また、日本人学生や関教授の存在も心強く、共に練習し、意見を共有し合う中で仲間意識が深まった。こうした環境に支えられてこそ、私は研修を前向きに続けることができた。

 この経験を通じて私は、成長とは自分一人の努力だけで成し遂げられるものではなく、周囲の協力や励ましによって初めて実現するのだと実感した。特に、異文化環境では自分だけで対応できることに限界があり、他者と協力する姿勢が不可欠であることを学んだ。

 また、私は自分自身の課題についても省察することができた。特に語学力や表現力の不足を痛感し、今後は積極的に磨いていく必要があると感じた。これは単に言葉の問題ではなく、他者と理解し合い、協働を進めるための重要な基盤である。

 総じて、この研修は私にとって「支え合うことの大切さ」と「自らの課題に向き合う姿勢」を学ぶ機会となった。これらの学びは、今後の大学生活や将来のキャリアにおいても必ず役立つと確信している。


将来の自分

 今回のベトナム研修は、私が将来どのように成長していきたいかを考える大きなきっかけとなった。特に、私は今後の自分にとって重要な三つの方向性を見出すことができた。

 第一に、コミュニケーション能力の向上である。研修を通じて、両国のリーダーがグループをまとめ、参加者の意見を引き出しながら活動を進める姿を間近で見ることができた。彼らの柔軟な対応力や傾聴する姿勢は、単なる語学力以上のコミュニケーション能力の重要性を示していた。私はこの経験を通じて、自らも相手を理解し、場の状況に応じた適切な発信ができるよう、力を磨いていきたいと強く思った。

 第二に、国際的な視点を持ったキャリアを追求することである。今回、ベトナムの経済成長や文化的多様性に触れたことで、日本の枠にとどまらず、海外で働き学ぶことへの意欲が高まった。将来は異なる国で生活し、グローバルな環境で経験を積み、経済学の知識を実社会に結びつけたいと考えている。国際社会での挑戦は容易ではないが、自分を成長させる大きな機会になると確信している。

 第三に、感謝と協働の精神を大切にすることである。今回の研修を最後まで楽しみ、学びを深められたのは、ベトナムの学生や仲間の温かい支えがあったからである。彼らの親切さや協力的な姿勢から、成長は他者の存在によって支えられていることを実感した。私は今後もこの感謝の気持ちを忘れず、周囲と協力し合いながら共に成長していきたい。

 総じて、将来の私は「コミュニケーション力を備えた国際人」として、異なる文化や価値観をつなぎ、人々と協働して前進できる存在を目指したい。その第一歩として、今回の研修で得た学びを糧にし、さらに成長を続けていきたい。


4.最後の振り返り

 今回のベトナム研修は、私にとって経済的な学びと異文化理解、そして自己成長を同時に体験できる極めて貴重な機会となった。韓国企業による進出や日本の直接投資の減少、ヴィングループの財務問題などを通じて、ベトナム経済の現状と課題を具体的に理解することができたことは、経済学を学ぶ学生として大きな成果である。

 同時に、この研修は私自身の成長を促す機会でもあった。体調面や言語面で困難を抱えながらも、現地の学生や仲間の支えにより最後までやり遂げることができた。交流を通じて、感謝と協働の大切さを実感するとともに、自分に不足している課題にも気づくことができた。

 さらに、この経験は将来の方向性を考える契機となった。コミュニケーション力を高め、国際的な舞台で挑戦し、感謝と協働の精神を持って行動する――そのような姿を目標として描けるようになった。

 総じて、今回の研修は単なる海外体験にとどまらず、理論と実践を結びつけ、未来の自分を形作る大切な一歩となった。この学びを今後の大学生活やキャリアに活かし、さらに広い世界で成長を続けていきたい。


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