第4章 「父の日サプライズ!!歌の力でフルチャージ!!」
仕方ないのだ。
ある時は、私たちがネパール学生と互いに動画を送り合い交流を深めようとしている真っただ中に、オンライン授業の過酷さ故に自己嫌悪に陥り「私を置いていってください…」とまさかの自滅発言。無礼を恐れずに言えばまるで誘蛾灯に照らされ翅のなくなった昆虫のようだった。
またある時はzoom授業の途中にゼミ生全員の視線が集まるカメラの前で頭を抱え「The 悩んでいる人」ポーズ。
落ち着きを払ったゼミ生を他所に、先生だけがまるで電気の使いすぎでブレーカーが落ちたり、漏電したりするようにてんやわんやしていた。
「置き去りにしてごめんなさい。私たちは世界に向けて飛び立ちます。先生はもう私たちのことは忘れてごゆっくり・・・。」
飛行機のドアは閉じ、離陸に向けてゆっくりと機体が動き出した。
と、そのとき、一人の学生が電光石火の如く皆に大きな声で熱く語りかけた。「こんなの、あんまりだわ。もう一回だけ最後のチャンスをあげようよ。倒れかけている先生に熱い心からの叫びと励ましの歌を送れば、再び立ち上がってくれるかもしれない。これがだめなら私も諦める。」
声の主は榎本みう。別名、関ゼミの「歌姫」(本ブログ担当者のひとりでもある。)
これまでも度重なる苦境を力強い歌声で救ってきたみうに皆の視線が集まった。
「みうがそこまで言うなら・・・。」
とゼミ生の決意は固まった。
目標が決まれば関ゼミの準備は早い。関先生に10万ボルトの閃光を注ぐために、実行日は「父の日」と定めた。関先生が自分たちの父と年齢が近いとはいえ、大学教授を“お父さん”と呼ぶゼミ生は滅多にいないであろう。休日である父の日に、ゼミ生からお父さんと呼び掛けられる展開など先生は絶対に予想をしていないと考えた。
そして先生の趣味嗜好というベールを剥がすべく、ゼミ生総出でネット上にある先生の情報を全て調べ上げ、たった一週間で関先生の人生をほぼ網羅した。(達成感と共にネットの恐ろしさも感じた。)
あるゼミ生が言った。「関先生は大のユーミン好きだぞ。」
みうはこれに強く反応した。「それだ!ユーミン風でいこう!」
「私が歌うからね。みんなは最後に一緒に「関先生、ありがとう」って言うだけでいいから、気持ちを込めて言ってね。わかった?」
普段は温厚で静かなみうがいきなりゼミ生をてきぱきと仕切り始めた。その変わりように皆は圧倒され、言われるままにするしかなかった。
ゼミ長は「パイロット」に、機体を一旦停止するように指示。みうはその場で作詞に取りかかった。文才のある彼女にとって関先生の心を奮い立たせる程度の歌詞などお手の物だ。あっという間に完成させギターを手に取り、ユーミン風の歌にしてしまった。
時間が限られる中、既存の音源に頼らず必死に歌を練習し続けるみうは、まるで白熱電球を発明しようとするエジソンのようであった。オリジナリティ溢れ、電気ストーブの熱のように心が温かくなる歌をこんな短時間で作れる彼女はカリスマとしかいいようがない。
限られた時間の中でもプロジェクトは緻密に練られた。作戦はこうだ。
まず、父の日である6月21日日曜日の夜23時に、ネパールプロジェクトについてセクションリーダー会議をZoomでやりたいと先生に声かけをする。そして当日先生が登場したら話し合いを装い、途中で歌を歌い始め、先生を驚かせてエネルギーをチャージする。
しかし、ここでも先生が面倒を起こす。会議を提案したところ、「そんな会議は必要ない」と一歩も譲らないのだ。
「日曜の夜23時にゼミの会議とか、大学の授業として普通にまずいでしょ。緊急事態ならともかく。」
ここまで来たら“騙すしかない”という結論に至った私たちは、「先生、今ここでは言えませんが緊急事態なんです。会議に参加してくださればわかりますよ。何とかお願いします!」といって拝み倒した。
そして父の日当日・・・
ゼミ生がスタンバイしている中、時間通り、日曜の夜23時に、深刻な話が待ち受けていると勘違いしている関先生がZoomに登場した。先生は困惑しながらもゼミ生の様子をうかがっていたが、戸惑った様子で言葉を発した。
「え?なんで全員いるの?リーダー会議なのに?」
思わず爆笑しそうになったがここは抑えないといけない。おもむろにゼミ生がパワポスライドを共有しながら、ネパールプロジェクトの相談を始めた。
数分後、スライドをめくって…
「関先生!!これは真っ赤な嘘です!!!!」と力強く宣言!!
まったく意味のわかっていない関先生は「ぽかん」としている。そこにゼミ生渾身の動画がZoomに流れ始めた。
動画によりゼミ生ひとりひとりが帯電する電気が寄り集まり、先生に1000万ボルトの電気ショックを流した。動画が終わったころには先生の心はフルチャージされていた。
そして・・・!さらに・・・!
私たちの流した電流があまりにも強すぎたのか、関先生のみならず、充俊(あつとし)というもう一人のゼミ生をも感電させてしまった。彼が「ビリビリ」と感電している様子は画面上からも見て取れた。「やばい。あつとしを助けなければ。」
しかし手遅れだった。フルチャージされてしまったその感電男の口からまさかの"爆弾発言"!誰しもが驚き凍り付くようなとんでもない提案をしてきた。
「え、あつとし、気でも狂ったの?」
次回「感電男による関ゼミ10,000字プロジェクト」
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